「パン職人になりたいけど、将来性はあるの?」と疑問を持つ学生さんもいるのではありませんか?自分の「やりたい」を仕事にするのは、とても大切なことです。しかし、その仕事を生業とするなら、業界や職業の将来性も把握すべきでしょう。
そこで今回は、日本のパン業界の市場規模や動向をもとに、パン職人の将来性を分析・考察していきます。
パン業界の市場推移
市場分析を行っている「矢野経済研究所」の調査によると、過去5年間における日本のパン市場は、ほぼ横ばいで推移しています。ない、ここでいう市場規模とは、メーカー出荷金額ベースの売上を意味します。
具体的には、2017年の市場規模は約1.55兆円、2018年は約1.57兆円、2019年は約1.57兆円です。前年比に対して細かい増減があるものの、基本的には常時、安定的な市場規模を誇る業界といえます。
大きな動きが見られたのは、新型コロナウイルスによるパンデミックが発生した2020年です。2020年の市場規模は約1.51兆円で、直近5年では、もっとも低い数値となりました。
しかし、コロナ禍における「巣ごもり需要」の高まりから、テイクアウトできるパンの売上が急増します。結果、翌年2021年の市場規模は、約1.53兆円まで回復しました。
そして2022年の市場規模は、1.57兆円まで回復する見込みです。この先の展望として、2024年から2026年まで、日本のパン業界の市場推移は、緩やかに拡大すると考えられています。
日本のパン業界が成長する理由
ここでは、日本のパン業界が成長を続ける理由について、2つのポイントから解説します。
理由1.「パン食」が日本人に広まったから
近年、若年層を中心に日本人の米離れが進んでいます。「朝食はパン派」といった声も少なくないでしょう。そもそもなぜ、「パン食」が広まっているでしょうか。これには日本における歴史的背景や社会的要因・トレンドが関係します。
1945年に終戦した第二次世界大戦以降、日本では「米食中心の学校給食」が始まりました。パンと牛乳がメインの学校給食が国内に浸透し、白米が基本であった日本人の食習慣は、徐々に変化していきます。
2000年代初頭、日本のパン文化は「黄金時代」を迎えます。この頃から、日本発祥のパンが次々と登場します。たとえば、私たち日本人に親しみのある、コッペパンもその1つです。
コッペパンは、フランスパンの一種である「クーペ」をベースに開発され、皮が薄く、細長い形状が特徴です。学校給食の定番ですが、2016年頃よりコッペパン専門店が日本国内に続々とオープンし、ムーブメントを起こしました。
また、メディアもパンブームの火つけ役となりました。有名な話では、人気の首都圏情報誌「Hanako」が2009年に「東京パン案内。」という特集を組んだことで、パンブームが加速しました。ここ数年では、高級食パンブームなども大きな影響を与えています。
2000年以降においては、このような歴史的背景および社会的要因から、徐々に日本人の間で「パン食」が広まったと考えられます。
理由2.孤食・個食が定着したから
近年、ニュースや新聞では、日本人の働き方や労働環境の多様化が報じられています。自由な働き方ができる反面、食事の時間帯がばらばらになったり、家族で一緒に過ごす時間が減ったりしているのです。
その結果、日本人1人あたりの孤食・個食の機会が増えました。孤食・個食とは、家族または他人が不在の食卓で、1人で食事することをいいます。それにともない、時短・簡便な食事が求められ、手軽に食べられるパンの需要が増加しました。
国際情勢が原因?小麦の価格高騰の原因は?
2022年2月、ロシアのウクライナ侵攻が始まり、世界に衝撃を与えたのは記憶に新しいところです。
その影響は私たち日本人の暮らしにも現れています。わかりやすいのが、類を見ないレベルの物価高です。とりわけ小麦の高騰は影響が大きく、パンを含め、さまざまな食べ物の値上げが行われました。
そもそもなぜ、小麦の価格が高騰したのか。4つのポイントにわけて解説します。
1.世界情勢の影響
農林水産省が公表した「麦をめぐる最近の動向」によると、日本は小麦の約9割を海外から輸入しています。カナダ・アメリカ・オーストラリアの外国産銘柄が大部分を占めており、日本で生産される国産品種は約1割に留まります。
小麦の価格は、世界情勢の影響を大きく受けることで知られます。直近で拍車をかけたのは、先述した2022年2月のウクライナ侵攻です。
不安定なウクライナ情勢による小麦の供給懸念、ロシアの輸出規制などがあり、小麦の国際価格が高騰しました。
輸入小麦は、日本政府が商社を介して購入し、製粉メーカーなどに売り渡します。この仕組みを「政府売渡制度」といい、メーカーに対する販売価格を「政府売渡価格」といいます。
小麦の国際価格が高騰すれば、政府売渡価格が割り増しになり、製粉メーカーにおける小麦粉の製造コストも高くなるのです。そしてパンメーカーやパン屋、最後には私たち消費者が物価高という形で、連鎖的に影響を受けます。
2.小麦の不作
2021年夏、カナダおよびアメリカにおいて、高温かつ乾燥による小麦の不作が起こりました。日本は小麦を輸入に頼っているため、不作による国際価格高騰の影響を大きく受けたのです。
3.急速な円安の進行
2022年より、円安ドル高傾向の為替レートが続いています。円安とは、他通貨に対する日本円の価値が下がっていることを意味します。「1ドルを得るのに必要な日本円が増えている状態」ともいえます。
小麦は輸入に頼っていることをお話しましたが、その取引には米ドルが使われます。つまり、円の価値が下がっている円安状態では、米ドルで小麦を輸入するために必要なコストが増えます。
単に国際価格が高騰しているだけでなく、円の価値が下がっていることも、小麦の価格高騰に拍車をかけているのです。
4.物流コストの値上がり
トラックなどで小麦を搬送する輸送コストも、ここ数年で急激に増加しています。同様に世界情勢の影響が大きく、とりわけロシア産原油の禁輸措置が大きいでしょう。ロシアは世界第三位の原油産出国であり、禁輸措置からガソリン価格が高騰し、結果的に物流コストも増大している形です。
日本におけるパン生産量の推移
パン業界の市場規模は、さまざまな社会的・経済的要因の影響を受けています。ここで気になるのが、パンそのものの生産量についてです。市場規模は緩やかな拡大していますが、生産量はどのように変化しているのでしょうか?
これについては、昭和・平成・令和における「パンの生産量(小麦粉使用料)」の推移から算出できます。
以下、農林水産省が公表している「食品産業動態調査」からデータを一部抜粋しました。
- 昭和40年(1965年):合計864,600トン
- 平成29年(2017年):1,254,062トン
- 令和4年(2022年):1,189,000トン
特筆すべきは、昭和から平成にかけてパン生産量が急激に増加していることです。食の欧米化や米離れ、孤食・個食の定着などの影響が如実に現れています。
一方、平成から令和は期間が短いものの、数値はほぼ横ばいです。2020年の新型コロナウイルスによるパンデミックがあるため、ピンポイントで見ると微減していますが、反発して元の数値に戻るでしょう。市場規模のさらなる拡大が見込まれているので、パンの生産量も同じく、増加すると予測されます。
米とパンの支出額の推移は?
総務省統計局が毎年公表する「家計調査」を見ると、日本の一般家庭においては、2011年頃より米とパンの支出額が逆転していることがわかりました。
具体的には、米類の支出額は2万7,777円であるのに対して、パン類は2万8,371円となり、調査開始以降初めて、主食に対する支出額をパンが上回りました。
以降はパンの支出額は右肩上がり、米類は右肩下がりが続いています。現代人の食生活やニーズに対し、パンという食べ物がマッチしているのでしょう。
パン業界の最新トレンド事情
ファッションにトレンドがあるように、パン業界にも「流行」が存在します。そこで、2023年のパン業界で注目されているトレンド情報をご紹介します。
パン業界に興味がある人、パン職人を目指している人は、最新情報にしっかりとアンテナを張っておきましょう。
なお、これらに関わったり、生み出したりするには、製パンの知識・スキルが必要です。本格的にパン業界で活躍したいなら、製パン学科のある専門学校に入学し、一通りの基礎を学びましょう。
ヘルシー志向
ヘルシー志向が高まる中、身体に配慮された成分・製法で作られたパンが注目されています。近年のトレンドとして、以下のようなパンが人気です。
- 低糖質パン:糖質が少なく、ダイエット中の人や糖質制限をしている人に人気
- 全粒粉パン:小麦の全粒粉を使用し、食物繊維が豊富で栄養価が高い
- 機能性表示食品のパン:特定の機能性成分を含んだパン
- グルテンフリーパン:小麦粉を使わず、グルテンを含まないパン
- 大豆や亜麻仁を使ったパン:たんぱく質やオメガ3脂肪酸が豊富なパン
いずれも健康志向の高まりや、ダイエットニーズに応えるために開発されています。低糖質やグルテンフリーの食材を使ったパンやヴィーガンパン、豆腐を生地に練り込んだ豆腐食パンなども人気です。
レトロブーム
昔ながらのレトロなパンが再び注目されています。たとえば、コロッケパンや焼きそばパンなどを現代風にアレンジした「進化系レトロパン」が登場しています。往年の味わいはそのままに、ワンハンドで食べやすくしたり、フレーバーのバリエーションを揃えたりと、現代人のニーズを満たす工夫が見られます。
高級食パンブーム
コロナ禍において人気を博した高級食パンですが、2021年以降はやや需要が低迷しました。しかしながら、一定のファン層を獲得しており、プチ贅沢品の代表として未だに人気があります。
本格的なブームになる2020年以前から、高級食パン自体はありました。しかし、コロナ禍において、巣ごもり需要による「プチ贅沢志向」が広まってから、全国各地に「高級食パン店」がオープンしたのです。大手コンビニチェーンなども、PB(プライベートブランド商品)で高級食パンの取り扱いを始めます。
繰り返すように、当時ほどの勢いはなくなったものの、依然として消費者ニーズは存在します。食パンという日常品を「嗜好品」に昇華させ、業界を盛り上げたのは高級食パンの大きな功績といえるでしょう。
まとめ
パン業界の市場規模や動向は、さまざまな調査・データから紐解くことができます。総じていえるのは、食べ物としてのパンは常に需要があり、そしてパン職人・パン屋も人々が求められていることです。米と並ぶ日本人の主食ですが、まだまだ発展の余地があります。このように数字を見れば、パン業界の未来は明るいことがわかります。
これからパン業界でプロとして働くなら、専門学校でしか学べない製パンの技術・基礎を身につけましょう。日本菓子専門学校の「製パン技術学科」では、現場を意識したプロ育成のための実習プログラムとカリキュラム、少人数制実習により、即戦力となるパン職人を養成します。本気でパン作りを学ぶなら、日本菓子専門学校でチカラをつけることをおすすめします。ぜひオープンキャンパスに足を運んでみてください。
参考URL:
https://www.kyoto-seikagijyutsu.ac.jp/column/seika-osigoto/boulange-yarigai.html
https://www.kobeseika.ac.jp/contents/boulanger/baker-rewarding/
https://shingakunet.com/bunnya/w0036/x0492/yarigai/
https://www.sanko.ac.jp/job/research/breadmaker/yarigai.html
https://careergarden.jp/pan-shokunin/yarigai/
https://okayamakobo.com/liaisonproject/column/pan-school/
https://www.maff.go.jp/j/heya/kodomo_sodan/0210/02.html